冬将軍vs鍋奉行 白銀の聖者 世界が一面の雪景色になっていた。 朝、目を覚ましてきた隊士達が揃って声を上げる。 空は透けるような青空、世界は真っ白な銀世界。 子供でなくても思わず声を上げたくなる光景だった。 「うわぁ」
平助も思わず庭に飛びだして声を上げた。
平助は思わず「へへっ」と鼻をこすった。 「平助!」 「え?」 名を呼ばれて平助が首を振るが、どこにも誰の姿もない。 「平助こっちこっち!」 「ええ?」
更に声は彼の名を呼び続ける。 「おかしいなぁ」
ぼそっと呟いて彼が空を見上げた時、 「わぁっっっぶっ!!?」
驚いて叫ぼうとした彼の口に雪が飛び込んでくる。 「はっはっは〜〜っ!! 寝ぼけてんじゃねぇぞ、平助!」 「早く上がって来いよ〜!」 「な、永倉さんに原田さんっ!!」
見れば永倉と原田の二人が、 「雪かきしようぜ♪」 と。
「うっわ〜〜〜っ!! 二人が珍しく働き者だと思ったら…こうゆうわけかぁ」 「何だよ珍しくって!」 原田が叫ぶ平助に鍬で雪をすくって投げる。 「だって、二人とも進んで下働きなんかしないじゃん」 口を尖らせた平助が丸めた雪を原田に投げた。
「何だと?」 と雪を顔面に受けた原田が睨む。 「邪魔邪魔邪魔〜〜〜〜〜〜っっ!!!!」 と永倉が二人を箒で掃き飛ばした。 「わっっ!!!?」 「何するんだよっ!!?」
危うく屋根から落ちかけた二人が叫ぶ。 「カマクラ作っちゃおうぜ」 きょとんと原田と平助が顏を見合わせる。 「屋根の上で?」
平助が 「庭じゃないの?」 と下を見下ろすと、 「庭じゃせっかくの景色が楽しめないだろ〜が!!」 「なるほど!のった!」
永倉の提案に原田がポンっと手を打つ。 「だ、だって土方さんにバレたら…」 思わず小声になってしまう平助だったが、永倉は不敵に笑った。
「鬼副長なら頭痛がするとかで、部屋で休んでるよ。
それだけ言うと、平助の目の前で二人はせっせと雪を集めだした。 「ようしっ!!」 そうして3人のカマクラ作りが始まったのである。
「………何の音だ?」
斎藤がお茶を飲みながら呟くと、島田と沖田が顏を見合わせた。 ボスボスボスボスッ…ガッガッガッガ…ザザザ… 「……ちくしょう、何だってんだ?」
布団の中で土方は頭を抱えた。
「さすが新八っつぁん、こうゆうの得意だよなぁ」 「へへっ任せろや!」
自慢気な永倉の目の前には、 「うわぁっ!! この中でご飯食べたい〜〜っ!!」 掘った穴の中で平助がはしゃぐと、原田が何か思いつく。 「そうだ!鍋しようぜ、鍋っ!!」 「お、良いねぇ。じゃあ俺はもうちょっと形を整えるから、鍋の方頼むわ」 「やった〜〜〜っっ!!!」 すっかりその場が屋根の上である事など忘れて楽しむ3人。 「平助も材料とか運ぶの手伝えよ」
原田に声をかけられて、平助は上ってくる時に使ったはしごに向かった。 「え? 何で? 下に降りるんじゃないの?」 「まぁ見てろって♪」
不思議がる平助に、原田はウィンクをすると 「まさか…」 平助がちょっと顏をひきつらせる。
すると原田は板の上に座り 「行っけ〜〜〜〜っっっ!!!」 と 「うわ〜〜〜〜っっ!!!?」 平助が見守る目の前で、原田の体が勢い良く屋根から飛びだす。 「ひゃっほ〜〜〜〜うっ!!!」
原田は屋根から庭に向かってダイブすると、ボスーン!! と 「は、原田さんっ!!!?」 「ぷはぁっ」
厚く積もった雪の中から原田は顔を出すと、 「最高っっ!!!」 「本当に〜〜〜〜っっ!!!?」 それを聞いて平助も同じ方法で下に降りたのだった。
「…う〜…」
土方はガンガンと痛む頭と熱、そして意味不明の物音に苦しんでいた。 「副長…大丈夫ですか? 何か要るものがあれば…」 「…ああ、悪いな。…そうしたら…氷のうを作ってきてくれないか? 熱が…」
ゴホゲホと言葉尻を咳き込む土方。 「す、すぐにっっ!!!」
彼は慌ててその場から駆け足で去っていった。 「し、静かに歩いてくれ…」 土方は段々と頭が朦朧としてきていた。
「いや〜仕事の後はこれに限るな♪」 ついでに拝借してきた酒も喉を潤してくれる。 「うっま〜〜〜いっ!!最高っっ!!!」 「も〜〜っ踊っちゃうぞ、俺はっっ!!!」 「きゃははははっ!! 原田さん得意の腹踊りだね〜〜〜〜っっ!!!」 ドンチャカドンチャカと食器を鳴らしながら原田が踊りだす。
「はっはっは〜〜っ!! 景色は最高!酒も旨いし鍋も旨いっ!! 「本当だよね〜〜っ!! 僕も踊っちゃおうかな♪」 「おっ!来るか平助!」
顏を赤らめた平助が立ち上がると、原田も踊りを激しくしだす。 「ひゃっひゃっひゃ〜〜〜っ!! お前も脱げや、平助〜〜〜っ!!!」 「いや〜〜〜〜っっ!! 僕はまだ嫁入り前なのに〜〜〜っっ」 「がっはっはっはっは〜〜〜〜っっ!!!」
原田が平助の着物を脱がそうと、二人は屋根の上でもつれ合う。
「ううう…氷のうはまだか…」 土方は増していく騒音に呻き声を上げつつあった。
ヒョイっとはしごから沖田が顏をのぞかせた。 「お、総司か!お前も入れ入れ♪」
「も〜何か朝から五月蝿いなぁって思ったら。
カマクラの中から手招きをする永倉に、沖田がぶ〜っと口を尖らせる。 「ああっ!? 良いことしてるな〜」 「うお〜〜っ景色最高!!」 「あ、野村さんに相馬さん」
鍋からつみれの団子を取りだしていた沖田が気付くと、 「……な、何の音なんだ?」
土方は熱で涙目になっている視界の中に、
「…永倉さん達だったのか」 「お、斎藤。お前も一杯どうだ?」
赤ら顔で杯を傾ける永倉に、斎藤ははしごに乗ったまま、 「いや、遠慮しよう。俺は一つだけ忠告しに来たんだ」 「あん?」 「あのな、そろそろ撤収しないと屋根が…」 そう斎藤が呟いた瞬間だった。 「副長、氷のうをお持ちしましたよ…」 そう島田が障子を開けた瞬間だった。 「…おう、ありがとよ…」 そう、土方が頭をあげようとした瞬間だった。
ミシミシミシミシミシ…と奇妙な音を立てて、
「ぎゃ〜〜〜〜〜〜っっ!!!?」
ドドドドドドドド…ッと物凄い轟音が鳴り響く。 「……………あれ?」 島田の顔を見て、永倉達も驚いてカマクラから這い出て来る。 「…あらら…天井が…」 「重みに耐えられなかったんですねぇ…」
永倉の後から顏を出した野村が、そして沖田が頭上を見上げると、 「って、事は、ここは誰かの部屋なわけ?」 更に出てきた相馬が呟くと、その視界に島田が飛び込んでくる。 「…島田の部屋?」 尋ねる声に、島田が真っ青な顏をして震える指をさした。 「ん?」
島田の指さす方を、原田も平助も永倉も皆が追った。 「ふ、副長…」
それだけ呟くと島田は倒れてしまった。
「えええ〜〜〜〜〜っっっ!!!? 騒然とする室内に置いて、土方はカマクラの直撃を受けて気絶していた。
「あらら」
見れば土方の部屋には天井にぽっかりと穴が開き、 「焦らずとも、副長の記憶なんて飛んでしまってるよ」と。
そして島田が用意してきていた氷のうを掴み上げると、 「こんな大きい氷のうがあれば、こちらはいるまい」 そう呟いて…。
「次に雪が降った時には、雪見風呂とか良いなぁ」 「雪でお風呂作れるのっ!?」 「馬鹿、木枠の外を雪で固めりゃ済むだろうが」 3人は全く懲りていなかった。
土方の風邪も、まだまだ治らないようである。
良い国作ろうカマクラ新選組♪
来夢 |