重力って偉大 天の光 土方は上を見上げて生きてきた。 俯くことで前進はないと思い、ここまでの人生を選びだしてきた。 しかし…
しかしと土方は今思う。 …土方は今、洞窟の底に落ちていた。
「だっから〜っ」 土方の背後でまだ幼い鉄の声が響く。
「島田さんが野村さんをおんぶして、野村さんが副長を、 「そんな組体操がここで出来るか〜〜〜〜〜っっ!!!」
島田の怒声と同時に、がつーんっと鉄の頭上に鉄拳の落ちる音がする。 「副長っ!島田さんが殴った〜〜〜〜っっっ!!!」
びえ〜〜んっと泣く鉄に、土方は最初よしよしと頭を撫でてやってから… 「にゃっ!? にゃにふぉするんふぇすかっ!?」 「誰のせいでこんな所にいると思ってる〜〜〜〜〜っっ!!!」 「は〜〜れ〜〜〜〜??」
鉄はとぼけたが、土方の眉間にしわが寄るのも当然だった。
「変なのはお前の頭だ」 土方が呟きながら仕方なく近寄ると、心配した島田もついてくる。 「副長、危険ですよ」 「何、敵はまだここまで来なかろう」 「そうじゃなくて、鉄が」 危険なんです。 島田が言葉半ばに確信して言うのに、土方は思わず苦笑してしまった。 「あれ副長、何処行くんですか?」 「う〜〜っ寒っっ」 「野村に相馬か」
土方の後を追って野村とそれにひっつく相馬が走り寄ってくる。 「副長は一人じゃ移動出来ませんか?」 「いきなり呼びつけておいて偉そうな口だな、おい」 土方は鉄との間1m程を空けて立ち止まった。 「あれ、もっと寄ってくれないと」 「もっと寄れってお前…」
土方と島田は鉄との間を見た。 「ほらもっとこっちこっち!」 「阿呆か!お前がこっち来い!しかも変な物ってなどこだ!?」 「わぁっ!?」
おいでおいでをする鉄の腕を島田が引っ張ると、 「あ!?」 「ああっ!!!」 「え?何々??」
やばい!という顔をする鉄、驚く土方と島田、
ドドドドドド…という凄い音と衝撃があったのは覚えている。 「あ〜〜っっ!! 穴の下にこんな洞窟がっ!?」 「て、て〜〜つ〜〜〜っっ!! またお前が何かしたのか〜〜〜〜〜っっっ!!!?」
そう叫ぶ土方の視界に飛び込んできたものは、
「まぁ、副長の姿が見えないと判れば仲間が探しに来ますよ」 そう言って呑気に笑うのは野村。 「そうだな…」
だが…土方は息を吐いた。 「さ、さぶ〜〜っっ」 「こっちゃ来い相馬」
寒さに震える相馬と野村はひっついて暖を取っている。 「副長…お寒くないですか?」 「そうだな…少し冷えるが。君こそ大丈夫なのか?」
島田は大きな体をえばるようにニカっと笑った。
この男はいつだって頼もしいが、
一方で島田は意を決して土方にある提案を持ちかけようとしていた。 「ふ、副長…ひっついていた方が暖かいですよ、こ、こ、こちらへどうぞぞ」 「ん? ああ」 土方はくすっと笑った。
『が〜〜〜っっ!! 決めようと思ったのに
島田が内心で叫ぶ中、土方は意外に素直に島田の方へ歩み寄る。 「………っぶっ!!!」 一気に島田の顔が赤くなる。 「だ、大丈夫か?」 「大丈夫です!!」
土方が心配して訊くのには理由があった。
だがこんな機会は二度と無いかもしれない。 「ふ、副長…」
胸に柔らかい体が触れるのに感激した島田は、ただうっとりとその名を呟いた。 「は〜〜っ暖かいっ」 「…へ?」 島田がはっと腕の中を見ると、土方と自分の間に…鉄の笑顔が。 「もう寒くって寒くって。やっぱり寒い時にはおしくらまんじゅうですよね!!」
ピキーン…と固まる島田をよそに、
さすがの鉄も大人しく、島田と土方の間に小さくなっている。 「何だか…おかしなもんですね」 ふふ…と相馬が笑った。 「何がよ?」
ずずっと鼻の頭を赤くしながら野村が尋ねると、
「ここまで戦い続けて来て、こんなに静かな時間は
「あ〜そういえば…そうだな。
島田の笑う声に合わせて、白い息が飛び交う。 突然の事に全員が一瞬声を失ったが、それは確かに上空から響いた。 「おお〜〜い!土方くぅ〜〜ん!?」 「大鳥だ」 土方は思わずガバリっと立ち上がった。 「ここだーーーっ!!!」
「ああ、やっぱり!大丈夫かい?
その大鳥の声がまさに天の声の如く、一同に安堵の笑みが広がっていく。 「たまには役に立つ…」 「うわぁ、酷い事を言いますね。そんなだから、こんな目にあうんですよ?」
思わず呟いた土方の言葉に鉄が反応する。 「本当に可愛いな、お前ってヤツは〜〜〜〜〜っっっ!!!!」 「ぼうふぉくひゃんたい〜〜〜〜〜〜っっっ!!!!」
びえ〜〜っと喚く鉄と土方の間に、上空からするすると太い縄が降りてきた。 「よし!じゃあ相馬から脱出しろ!!」 と。
「誰のせいでここにいると思ってる?ああ? 誰のせいで!?」
土方は三度目のほほつねりの刑を鉄に与えてから、
相馬、野村は軽々と縄を使って脱出に成功する。 「次!島田!!」 「自分は副長の後で良いです!」 「だから次こそ僕ですよ〜〜〜っ!!!」 律義に言う島田は喚く鉄をヘッドロックすると、土方に縄を差し出した。
「し、島田さ、さんっ!頭頭、
鉄は泣くが島田はそれを無視して、土方に強い視線を送った。 「…判った。なら、先に行くぞ」 土方は島田の好意を受け取り、縄を手にしてするすると上り始めた。
「…ず、ずるい!」 「鉄、お前まだ…」 「僕の望みは副長を落とし穴に落とす事だったのに〜〜〜〜〜っっ!!!!」 「お前なぁっ!!!」
鉄は島田の方が頭を抱えるような叫びを上げて、 「うわっ!?」
ぎょっとする土方と島田を無視して、鉄は何をするかと思ったら… そして次の瞬間に、土方は思わず叫び声を上げた。 「て、鉄〜〜〜〜〜〜〜〜っっっ!!!!」 「へっへっへっへ〜〜〜〜んっだ!!」 「わっっ!?」
島田は何かを手にして飛び降りた鉄を見てから、 一瞬でその顏が赤くなる。 なんと土方はズボンをずり下ろされ、下半身が下帯一枚の姿になっていたのだ! 鉄は抜き取ったベルトを手に、きゃっきゃっと笑っている。 「鉄てめぇ〜〜〜〜〜〜っっっ!!!」
怒鳴って下を見下ろす土方に、 「ひ、土方君急げっ!縄が持たないっ!!!」
それは大鳥の必死の声だったのだが、 「ぶっ飛ばすっ!!!!」 それで決まりだった。
「鉄この野郎!ベルトを返しやがれっ!!!」 「嫌ですよ〜〜〜んっ!!!」
ズボンをずり落ちないように掴みながら鉄を追う土方に、 「僕だって怒る時は怒るんですからね〜〜〜っっ!!!」 鉄はそう叫ぶや否や、洞窟の奥の方に向かって走り出して行く。 「待ちやがれ〜〜〜〜っっっ!!!!」
そして土方もそれを追って走り出す。
「ふ、副長、迷子になったらまずいですよ! …結局島田も二人の後を追っていってしまった。
「大丈夫大丈夫。あの人達は殺しても死にゃしませんから」と。 「そうなの?」 「ああ。だってお前、副長が大人しく死ぬと思うか?」
野村は不思議そうな顏を向ける相馬に語った。 「だろう? 何、大丈夫さ。2.3日したらどっかの穴から顏出しますよ」
かっかっかっか!と笑う野村につられて相馬も笑う。 「土方君ってもぐら?」 と。
蜘蛛の糸は切れやすい(確信)
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