葡萄風味の赤色です 魅惑の赤 北の最果ての地-蝦夷。 五稜郭にたてられた函館旧幕軍政府は、このまだまだ未開の地に 腰を据え官軍との決戦を目前にしていた。 そこに輝ける星が一つある。 土方歳三だ。
ここまで追いつめられたと言っても過言ではない旧幕軍の中にあって、
「……何だ?」 土方はまだ薄暗い外の気配を訝しみつつ、上体を起すとそこには… 「…またお前か…」 「…は…ははっ。おはようございま〜す…」
鉄がいた。 「………ん!?」 「あ、あは、あはは、あははははははは」
眉間に皴を寄せて、寝ぼけた頭でそれが何なのか考える土方を見ながら、 「………んん!?」
障子の向こうに消えていく鉄の姿に、土方がもう一度唸る。
「待ちやがれ鉄〜〜〜〜〜〜〜っっ!!!!」
鉄が走り出すと背後からドドドド…という激しい足音と共に、 「てめぇは何で俺の血を抜いてやがるんだ〜〜〜〜〜っ!!?」 「ぎゃ〜〜〜っっ!!!」 その土方の鬼の形相に、鉄も走るスピードを上げた。 「理由を言ってみろ〜〜〜〜〜っっ!!!!」 「ま、まだ言えませ〜〜〜〜〜んっ!!!」 「何だとぉ〜〜〜〜〜っっ!!!?」
大声で言い合いながら走る二人に、 「うわぁ〜〜んっ!誰か助けてぇ〜〜〜っっ!!!」
鉄の叫びが五稜郭を突き抜ける。 「わっ!?」 あっと驚いた土方の目の前に鉄よりも大きな人影が出現する。 『ぶつかっちまうっ!!!』 土方がそう思った瞬間、彼の体はふわりと浮いた。 「伊庭さん!ありがとうございます♪」 「伊庭っ!?」
鉄の嬉しげな声に驚いた土方が叫ぶ。 「おうよ!ちぃっと付き合えや、歳三さんよ」 「な、何がだっ!今はこのクソガキを捕まえるのが先だ!下ろせっ!!!」 「まぁまぁ、子供のイタズラに目くじら立てなさんなって。面白いトコに連れてってやるから」 肩の上でバタバタ暴れる土方に、鉄がバイバ〜イと手をふる。 「こいつのはもう子供のイタズラなんてもんじゃねぇんだよ!!!」 「はいはい、あんまり暴れると可愛い尻が見えんぞ〜」 「…っっ!!!」
ニヤニヤと笑う伊庭の声に、土方は顏を赤らめて暴れるのを止めた。 「あれ?今土方君の声がしたような…?」 「あ、大鳥様」
ん? と鉄が顏を上げると、廊下の向こうからキラキラ輝く男性が歩いてくる。 「それは何ですか?」 「これ? 宇宙人との交信用具。ところで土方君は?」
大鳥は真面目な顏で応えた。鉄はちょっとだけ、 「伊庭さんと遊びに出かけました」 「ええ〜? 何で僕を誘ってくれないかなぁっ!!!」 『誘わないだろ』 プンプンと怒りながら走ってゆく大鳥の後ろ姿を、鉄は面白くもなく眺めた。
「こ、こんな所に俺を連れてきてどうする気だっっ」 夜明け直前の薄暗い中、土方は寝巻き一枚の姿でガタガタ震えていた。 「何だよ歳三さん、寒けりゃ俺が暖めてやるぜ?」 「結構だ!とにかく用件を言えっ!!!」 「もう、照れ屋だからな〜〜」
土方はガチガチ言う歯をきっと噛みながら、とぼけて笑う伊庭を睨んだ。
眼下は一面の銀世界。
「ま、まさか…」 と恐る恐る伊庭を見ると、 「雪滑り♪」 「やっぱりか〜〜〜〜〜っっっ!!!!」 うわぁああっと土方が嘆いた所で、坂の下から誰かの声がする。 「おぉ〜い、土方君はそこか〜〜〜っいっ!?」 「あん!?」
土方がそちらを見ると、 「お、大鳥…」 もはや「殿」なんて付けてられない。 「あ!ひっじかったくぅ〜〜〜んっ!!!」
大鳥も土方に気付いたらしく、
思わずそれに笑顔で手を振り返す伊庭に、 「おおい、ちょっと待てよ歳三さん」 「五月蝿いっ放せっ!!!」 「何で僕も混ぜてくれないのさ、土方く〜〜〜んっ!!!」 「うっさい馬鹿!変態っ!何だその格好はっ!!!」
ちょっとキレ気味な土方と、
三人三様に大騒ぎをする中、 「雪滑りしたらあっという間に降りられるって!しかも楽しいしっ!!」 「馬鹿野郎、こんな寒さの中にいたら凍え死ぬわっ!!」 「なら僕の胸でお眠りよ、土方君♪」 「誰がそんな毛深い胸にっ!胸毛で窒息するぞっ!!!」
ぎゃーぎゃーと言い合う男達の足下で、 「…ん? 何か音がしないか?」 「それは僕の、君への恋のトキメキだよ、土方君っ!!!」 「大鳥殿は不整脈か?」伊庭が真顔で言う。 ドドドドドド… 「だから歳さん、俺が後ろから抱いててやっから」 「人の帯を解くなっ馬鹿野郎っ!!」 「ああ、朝日に雪がキラキラと、眩しいねぇ。まるで君のようだよ」 「眩しいのはあんたのそのガラスだ」 ドドドドドドドドドド… 「なぁ、やっぱり音がするぞ?」 土方が耳を澄ませる。
「え?」 その土方の腰にしがみつきながら伊庭が。
「な、雪崩だ〜〜〜〜〜〜〜〜っっっ!!!!!?」 うわぁあああ〜〜〜〜〜〜〜っっ!!!?
突然の出来事に三人の身体が雪に呑まれていく。
「おおっ!? 雪崩が起きたのかっ!」 「あっ!誰か埋まってるぞ〜〜〜〜っ!!?」
その凄まじい轟音に五稜郭から人々がわらわらと出てくる。 「ふ、副長っ!?」 「何で副長って分かるんですか?」 「五月蝿い安富っ! 引っ張るから手伝えっ!!」
島田は一緒に顔を出した安富を怒鳴りつけると、
すると、すぽっと土方が姿を出す。 「す、すぐ暖めないとっ!!!!」
慌てる島田の側に、鉄が顏を出す。 「あ、起きた」 「副長〜〜〜っっ!! 御無事ですかっ!!!?」 泣き叫ぶ島田を無視して、土方は一言呟いた。 「鉄…そもそもてめぇが…」
それだけ言うと、彼はがくっと意識を失った。 「島田さん、島田さん」 「何だっ!?」 「これ、輸血とかに使う?」 は? と島田が鉄を見ると、彼は手に一本の瓶を指し出した。 「何だそれ?」 「副長の血を原料に作ったワイン♪」 「………は?」
島田はニコニコニコと笑う鉄と、腕の中のぐったりとした土方を見比べて… 「おいたわしや、副長…」 その時、島田の耳に賑やかな声が届く。 「おぉ〜い、これ美味いぞ〜〜っ!お前も飲めよ、島田〜〜〜〜っ!!!!」
見ると野村と相馬が真っ赤な顏で瓶を抱えて叫んでいる。
「ああっ!野村さん飲みすぎっ!! 「あ〜? でも殆ど飲んじまったぞ?」
鉄が野村の姿に慌てて走り出す。 「…………………っ!?」
その瞬間、島田の顔から血の気が引いた。 「て、鉄ぅう〜〜〜〜〜〜〜〜っっっっ!!!!!」
島田の怒りの絶叫が五稜郭に響く頃、
愛の献血に御協力下さい♪
来夢 |