欲しかったものは、この手に入る全てだった 沈黙の牙 新八が屯所に帰ると、青白い顏をした総司が待っていた。 二番隊の隊士達とそそくさと別れ、新八はその弟分の所へ走った。 弟分というには、あまりに落ち着いた青年だった総司。 剣の実力的にも、総司が一番隊を任せられている事からも判るとおり、 新八との差は無いに等しかった。 いや、人によってはその差は歴然というだろう。 総司という男は、それほどに強烈な存在感を持つ剣の使い手だったのだ。 …だったのだ。
「…起きてて良いのか?」 駆け寄り、開口一番にそう言うと、総司がにっこりと笑う。 「ええ。大分具合が良いんです」 「そうか。でもあんまり外の風に当るなよ」 「はい」
あくまでニコニコと。
その名を聞けば、即「死」が目の前を過っていく。 「永倉さんの帰りを待っていたんですよ」 「そうなのか?」
手招きをする総司の背中を追う。
「あん?」
小首を傾げる新八を他所に、総司は中に声をかけて障子を開ける。 「………」
ちょっと嫌だなぁと思いつつ、新八も中に入る。 「巡察ご苦労だったな…新八」 「あ、はい」
近藤の声に、新八がはっとする。 「あの…一体…?」
すぐには次の語を言わない近藤に、新八が恐る恐る尋ねる。
「おいおいおい!!!」
すると、案の定というか、想像した通りの顏が 「…五月蝿い、左之」 「っていうかよ、おいおい!!」
新八はずかずかと部屋に入ってきた左之に、 「…五月蝿い」 「だってよ!」 左之は新八の背中を見ながら、勝手にどさりと座った。 「新八っつぁんが、1.2番隊両方見るのかよ!!?」 「…五月蝿いって」
むすっと呟く新八の肩に手をかけて、左之はその身体を自分の方へ向かせる。
二人は暫く見つめあい、 「本当なんだな!」 ボリボリと顎を掻きながら、新八はやっと頷いた。
もう、待てないのだ。
どよめく隊士達を無視して、さっさと姿を消す土方。
それは「何故」ではなく、「やはり」「無理なのか」というものばかり。
騒ぎたければ騒げば良いさ…新八は思った。 「俺、身体もつかな〜…」 ぼそっと新八が呟いた時、聞こえていた隊士達の声が消えた。 「大騒ぎになっちゃいましたね」 総司がやってきたらしい。
「皆さん、副長からのお話の通りです。 あくまで明るい総司の声。 …やめろよ、総司。 「私の復帰はいつになるやら判りませんし…」 にこにこと、まるで他人事の様に微笑む総司が目に浮かぶ。 …やめろって。 「暫く刀を持たなかったら…手に力が入らなくなっちゃったんですよ〜」
あははははは…と屈託無く笑う総司の声が聞こえて来た瞬間。
「あ、噂をすれば永倉さ…」
あくまでニコニコと新八を見る総司にずかずかと近寄って、 …細い。
一瞬ゾクリと、不吉な感覚が新八の身体を走る。
新八の早足に、まるで跳ねるように軽やかに総司が続く。 …くそ! 新八は首を振った。 「…永倉…さん?」 不安そうな眼差しを向ける総司を、新八は誰もいない道場に押し込んだ。
日差しを横から受けて、総司の顏に深い陰影が付く。 「何ですか?」 少し困ったような笑みを浮かべ、総司が尋ねた。 「…笑うなよ…」 「え?」 「笑うんじゃねぇって言ってるんだ!!」
ビン…と新八の怒声が道場に響いた。
「…笑えないだろう? 悔しいだろう? 一番隊はずっとお前が守ってきたんだ。
今度は怒鳴り声では無かった。 「…しょうがないじゃないですか。闘えない私では、隊長の役は勤まらないし…」 「闘えなくないだろ」 「永倉さん…。私はね、もう…本当に手に力が入らないんですよ…」
ゆっくりと、総司が右手を上げた。 「闘えるだろう?」 「永倉さん。判って下さい。私は本当にもう…」
懇願するかのような総司の顏。 「闘えるだろう?」 「永倉さん…!」 「闘えるって言えよ!」 「言えませんよ!私は…私はっ!」
総司の左手が、自分の手を握る新八に手に添えられた。 「闘えるんだって、すぐに戻るんだって、言えよ!」 「だから私は…!」 「言えよ、お前は沖田総司だろう!?」 「………言えないって、言ってるじゃないですか!!!」 総司は叫び、そして…泣いていた。
「言えるものなら言ってますよ!だけど…駄目なんだ!!
新八の手の中で、総司の手が弱々しく震える。
「いつまでも隊の幹部職を、中途半端にしておくわけにはいかないじゃないですか!!
強い眼差しを向ける新八に、総司が涙の流れる目を向けた。
「皆さんが汗を流して、血を流して帰ってくるのを迎える度に、
ボロボロと流れていく雫。 「私を、おいていかないで下さいっっ!!!!」
だが、総司は倒れなかった。 「お前さんの強がりが、どんなに寂しかったか…」と。
その言葉に、総司の嗚咽がヒクっと止まる。
「平気な素振りのお前さんに、土方さんがどんな顏をしていたか…
総司に連れられて入った局長室で、黙り込んでいた土方。
ゆっくりと、総司の体を支えながら自分の体を離し、新八は総司を見つめた。 「絶対おいていかないから、お前も…一人で苦しむな」
一瞬の後、総司の目に更に涙が溢れた。
ずっと堪えていたせいか、涙は堰を切ったかのように流れ出た。
血と涙で絆を織って
来夢
うわぁぁぁっぁあっぁぁぁあああん(T■T)
今回も今回とて来夢さんに語呂キリ112983GETで 綴っていただきました☆ 語呂から肉関係をリクエストしようかとも 思ったのですが今回は趣向を変えて『喧嘩』をテーマに 新八主役のシリアスモードで綴って頂きました☆ っ……(・_・)) もうっ、総司の、新八の叫びに胸一杯☆
「闘えるって言えよっ!!」 胸の締め付けられる科白に…。
来夢さんっ今回も素敵な物語をありがとうございますっ(~▼~)
類稀なる才能で剣に生きた男が剣を握れなくなった瞬間☆
だが、嘆くことも悲しむことも、男達は耐えたのかもしれません☆
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