明けぬ夜は無いと信じていたあの頃 空の下の金色-こんじき- もうじき月も姿を消すだろう。 そんな夜の闇の中、誰かがこっそりと障子を開いて部屋に入ってくる気配がした。 近藤は布団の中で笑みを漏らす。 この気配なら空気で判る。 「何だ、眠れないのか?」 そういきなり呟いてやって、寝ていた上体を起こせば相手がビクッと体を震わせる。 「歳」 「〜〜〜〜っっ」
微かに残る月明かりに姿が浮かぶ。
新選組でも隊士達が土方のお許しを得て、年忘れのどんちゃん騒ぎをしていた。
近藤も飲んだ。土方も飲んだ。 「…入るか?」
近藤は固まっている土方に、はらりと布団をめくって訪ねてみた。 「一緒に年越ししたいな、と思ったんだ」 「…そうか」
近藤は笑った。
「何年前だったかな〜」 「うん?」
ゴロンと天井を見上げながら、土方の役者の様な顏が笑った。
「ほら、大晦日に総司が除夜の鐘を突きたいとか言い出して… 「ああ、あったあった」 「あの時、平助も新八も左之も協力して、えっらい騒ぎだったよな」
かっはっはと笑う土方に、近藤も思いだす。 よく苦情で済んだものだ。 「あの時も、結局大騒ぎのうちに年が変わってたんだよなぁ」 クスクスと昔の事と笑う土方に、近藤はちょっと考えてから呟いた。 「ああ、大変だったな。ツネが怒って怒って、危うく包丁で刺されるところだったよ」 あっはっはっはっは!と笑う近藤に、土方がピクッと止まった。 「…え?」 「ん?」
そんなのは初耳だ、と目を丸くする土方の顔に、 「い、いや、ほら、確かほら!左之と新八がどんど焼き用の餅を投げて遊んだ事もあったよな!!」 「おお、あったあった!」
土方の記憶は正しい。 「あの時、急きょ餅をつかされたんだよな〜っ」 「やったなぁ、確か」
あの二人のやった事だが、それは一蓮托生。 「結局餅つきも面白おかしくやったんだっけか」 目を細めて昔の事を懐かしむ土方。 「まったく、あの時のツネは俺の手を杵で潰そうとしてなぁ。怖かったのなんのって!」
がっはっはっは!とまたも笑う近藤。 「…手を? つ、ツネさんが?」 「おお。実は軽くくらってな、時々手がしびれるような…」
そんな呟きを聴いてしまえば、土方は平静ではいられない。 「し、島田〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っっっ!!!!」 勢い良く土方が布団から立ち上がると同時に、ざっと島田が障子を開いて現れた。 「副長何か!?」 「きょ、局長の体をお揉みしろ!!! 特に、手!!!」 「はっ!!」
いきなり呼ばれた島田は、いきなり現れたかと思うと、 「…………ほう」 またもや近藤の心に意地悪な笑みが浮かんだのは、この時だった。
「あれもいつかの正月だったか…総司と左之が福笑いをするって言って、
近藤の記憶も正しい。 「あ、ああ!あれは確か不動の人のものだったよな。思いっきり切り刻んじまって…」 「そうそう」
今度は近藤が目を細めて笑うのに、 「あの時もな〜俺がツネに切り刻まれる寸前だったよ」 「…えっ!?」 「ツネが怒って怒って怒りまくってなぁ、気が付いたら…」
何とか思い起こす…という風に近藤が首をかしげる。
「そうだ。部屋で包丁を研いでるんだよ、わざわざ部屋で!
わざとらしく気を遣ったように笑って誤魔化す近藤。 「総司〜〜〜〜〜〜〜〜〜っっっ!!!!」 呼べばすぐに反応がある。 「はいはいは〜い?」 「ハイは一回で良い!」 「はいはい、それで?」
がらっと障子を開けて入ってきた総司は、 何故、局長と副長の二人きりの間で、島田が近藤の手を揉んでいるのだろう? 考える総司に土方は言った。 「近藤さんにもお酒を持ってこい!上等なやつ!!!」 「……はぁ」
総司は焦ったかのような土方の命令に、首を傾げつつも立ち上がった。
「あの時は、ツネが黙って縄を俺の首にまわすものだから…」 「左之〜〜〜〜〜〜っっ!!! 局長におつまみをご用意しろ!!!」 ビューンッと左之が台所から走ってくる。
「いやいやあの時は、ツネが頭にロウソクを巻きつけて、 「新八〜〜〜〜〜〜ッッ!!! 局長の背中をお揉みしろっ!!!」 ビューンッやってきた新八が近藤の背中を揉む。
「一体何をしてるんだい?」 「あ、斎藤さん」 近藤にお酌をしながら総司がその姿に気付くと、土方が彼にも叫んだ。 「斎藤!!!」 「はい?」 「な、何か芸を披露しろっっ!!!!」 「……………」 土方の命令に、斎藤は黙って眉をしかめた。
「……皆して何をしてるの?」
彼は不思議そうに間口に立ち尽くした。 「お、大晦日に皆して何をしてるのさ?」 ちょっと引いてしまう平助に、土方が泣きそうな顏で言った。 「うう…お、俺らの為に、近藤さんがそんな怖い目にあっていたなんて…!!!!」 「…………はぁ?」
その土方の言葉に、今度こそ本当に平助は首を傾げた。
酒が入っているせいもあるのだろうか? 「いっつもいっつも俺達が騒ぐばかりで、近藤さんが怒らないのを良いことに…っっ」
土方の両目には涙が溢れ、今にもぼろぼろと雫がこぼれ落ちそうだ。
「俺、今度江戸に戻ったら、ツネさんに頭下げて頼むよ!!!!
とまで言い出したものである。 「………っっっぶっは!!!!」
噴きだした。 「嘘だよ、歳」 「………え?」 「全部、うっそ!嘘なんだよ」 「………えええっ?」
顏を真っ赤にしながら涙も流さんばかりに笑う近藤に、土方の表情が凍る。 「ツネがそんな事をするはずないだろう? 全部嘘なんだよ!」 「えええっっ!!!?」
気の毒な程に目を丸くする土方。
「いや〜、久々に歳が昔の話なんてするから…
あはははは、と笑う近藤に、事態を理解した周囲は
が、一人笑えないのは土方。 「え…え!? 嘘…嘘なのか!!?」 「当たり前だろう? ツネはそんな女じゃないよ」
改めて言う近藤の言葉に、土方は漸く理解したらしい。 「何だよ〜頼むよ〜ツネさんを夢に見そうだったじゃねぇか〜〜」
「はっはっは!悪い悪い、歳。でも…ツネといえば、
目の前に崩れた土方の肩をポンポンと叩きながら、 「知るかよ、夫婦の事なんざ」 「冷たいなぁ、歳は」
ちょっと視線を交す二人。
平助がぶ〜と唇を尖らせる。 「結局、近藤さんの悪戯に付きあわされたって事か?」 新八が呟くと、左之が肩をすくめた。
「まぁしょうがないな〜。江戸じゃ俺達の悪ふざけに、 「確かにそうですけどね〜」
総司がにやにやと笑う。 「ツネさんが不機嫌になるのは土方さんのせいだから、良いんじゃないですか?」
その総司の言葉に、え?と一同の目が丸くなる。 「おい、それ…」 訪ねる声に、総司は局長室の方を振り向きながら呟いたのである。 「愛する旦那様が、いっつも親友のことばかり見てるんじゃぁ…」 あ、と一同もピンと来た。 「不機嫌にもなりますよ、ね」
いつまでもこの笑顔が守られますように。
空は変わらず友も変わらず永遠に
来夢
歳(年)初めはやっぱり幸せでありたいですよね(~−~)
95559キリ番GETでリクエストさせてもらいましたのは 近藤さんと土方さんの年越しほのぼの物語☆ 試衛館エピソード添え風味で綴って頂きました☆
近藤さんと土方さん、彼らの絆って素敵です☆
今年一本目にして歳さんも危険な目にあわなかったことですし
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