愛の暴走
noncharant people



世はまさにバレンタイン。
お馴染ニューセレクトは女性社員が数多いので、
殺気立った日が続いています。




その日、土方は会社に行くのが気が重たかった。
2月14日金曜日。
それだけ聞けば明日はお休み…と楽しいはずなのに…。

「ご無事で」

社員寮を出る際に、管理人の氷雪にそんな声をかけられれば
不安は更に強くなる。

「い、生き延びてやるっ!!!」

こうして、そんな決意もむなしい土方の一日は始まった。
ドキドキしながら会社のロビーに入ると、
土方の目に飛び込んできたのは大量の小包みだった。
どれもこれもが、白ピンク金青…ときらびやかな色に包まれている。

「なんだこりゃ?」

思わず呆気にとられて呟く土方に、
後からロビーにやってきた斎藤がつまらなそうに言った。

「全部あなた宛の荷物でしょう?」

「俺宛!?」

うげっと唸る土方に、斎藤がその小包みを一つ持ち上げて
「ほらやっぱり」と土方に放って寄越した。
ポーンっと弧を描いてやってきたそれを、土方が両手で掴もうとした瞬間…

ドッカーン!!!!

突然その小包みが爆発したのである。

「…………っっっ!!!?」

頭上で爆発したそれから、土方が咄嗟に逃げる。
すると、つい今の今土方が立っていた場所に、
妙に粘ついた網のようなものが落下してきたではないか。

「な、なんじゃ!?」

驚いて叫ぶ土方に、どこからともなく声が聞こえる。

「…っち!」

はっと振り向いた土方の視線の先には、
悔しそうに唇を噛む部下・瑞希の姿が…。
そして土方は気付く。
瑞希の他にも同様な視線を感じる事に。

「…………これは、危険ですな…」

そう斎藤が呟くよりも早く、
土方は小包みの群れから離れるべく逃げ出していた。




土方が走りだした瞬間に、ロビーで次々と小包みが爆発する音がした。

「な、何が目的なんだっ!!?」

叫びながら走る土方がエレベーター前に辿り着くと、
ちょうどその扉がヒューンと開いた。
そしてそれに乗り込もうとした土方の目の前に、
エレベーター内でニッコリと笑う奈緒の姿が。
その手にしっかりとピンクの小箱がある事を確認して、
土方の背中に冷や汗が走る。

「部長、私からの気持ちです!」

「…いらん」

「そんな事言わずに」

「いらんっっ!!!」

とてつもなく嫌な予感にかられ、土方がくるっと背を向けたところで、
奈緒がその小箱を投げつけてきた。

「うわっっ!!?」

チュドーン!!!とやはり土方の背中で爆発する小箱。
その風圧で土方が壁に吹き飛ばされると、
その土方目がけて次から次と危険な小箱が降ってくるではないか。
やはり爆発しては粘着性の網を吐きだすその小箱の雨を、
土方が器用によけていく。

「っっくそっ!!!」

「部長めっけ〜〜〜〜っっ!!!」

階段を登り始めた土方に、天井からぶら下がった秋葉が
「えいっ」と小さなチョコの包みを放り投げる。

「ぐわっ!?」

ドドドドドドッと個別に着地しては爆発するチョコレイトに、
土方が命からがら身をかわす。

「ちっくしょ〜〜〜〜〜〜っっ!!! どっか判らない所に隠れて…」

必死に階段を登りながら呟く土方の耳に、
ピンポンパンポーンっと軽いメロディーが突然響いた。

『社員の皆さ〜ん、土方部長は現在、
中央階段の1.2階途中の踊り場にいますよ〜〜〜っ!! リオでした♪』

「なっっ!?」

いきなり自分の現在地を放送する声に、土方は思わず辺りを見回した。
どこかに隠しカメラでも設置されているとしか思えない。

「と、とにかくここを離れないと…」

慌てて階段を駆け登ろうとした土方だったが、
その階段の最上段にD×Iの姿を見つけて固まった。
D×Iはロングコートを身に纏い、
何故かニヤニヤと土方を見下ろしている。

「な、何だ!? お、お前も被害にあって…?」

「アイラブ土方部長…」

「へ!?」

呆気にとられる土方の前で、D×Iは突然纏っていたコートをガバッと開いた。
すると、彼の体にはダイナマイトのようにチョコレイトが巻き付けてあるではないか。
それを見た土方は叫んだ。

「そ、それももしかして〜〜〜〜〜〜〜〜っっっ!!!?」

「僕の愛を受け止めて下さい〜〜〜〜〜〜〜〜〜っっ!!!!」

「冗談はよせ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っっ!!!」

突然ダイビングしてきたD×Iに、
土方は思いっきり叫びながら階段を駆け登った。

「あ、よけないで〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っっ!!!!」

途中ですれ違ったD×Iが叫び、
そして落下してから爆発する音を聞きながら土方は怒鳴っていた。

「そんな危険な愛、誰が受け止めるかっっ!!!」

が、その時土方は気付いた。
自分の尻が熱い事に。




「…………」

恐る恐る自分の尻をそっと覗き込む土方。
すると彼の尻から煙が出ているではないか!

「う、うわぁああああ〜〜〜〜〜〜〜〜〜っっっ!!!?」

慌てて尻を叩いて火を消そうとするが、なかなか鎮火しない。
土方は焦る余りに、壁に尻をこすりつけながら走り出していた。
ベリベリベリ〜〜〜っっと尻をこすりながら彼が走り続けていると、
いつの間にか営業部の近くまで辿り着いた。
すると、そこでも悲痛な悲鳴が彼を出迎えたのである。

「うぎゃ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っっ!!!」

「ダーリン私のお手製チョコが食べられないっていうの〜〜〜〜〜っっ!!!?」

そっと土方が営業部内を覗き込むと、そこでは永倉が椅子に縛りつけられて、
左之代から口にどろどろのチョコレイトをねじ込まれていた。

「熱っ熱っっ!! 馬鹿野郎!このチョコレイトは溶かしただけのもんじゃねぇかっ!!!」

「何よ、文句あるの?」

「ありまくりじゃっっ!!!」

「じゃあ部長、こんなのはいかが?」

左之代に怒鳴る永倉に、ぴるぽるがニッコリと微笑む。
その手にはチョコレイトで染められたヒヨコ番長が握られていた。

「ば、馬鹿が〜〜〜〜〜っっ!!! し、死んじまうぞ〜〜〜〜〜〜〜〜っっっ!!!!」

口からチョコを吹きながら怒鳴る永倉の目の前で、
ヒヨコが段々と動かなくなっていく。

「ぴいぴいぴ…い…ぴ…」

「うわ〜〜〜〜〜っっ!!! 人殺し〜〜〜〜〜〜っっ!!!」

「何言ってんですか部長!鳥殺しですよ!!」

大騒ぎの永倉に、おくらが冷たい言葉を投げかける。

「そうそう。しかも、ヒヨコちゃんはお湯に浸ければすぐに復活するの!!」

当たり前のように言う左之代達に、
永倉が青い顔のまま固まったのは言うまでもない。
そしてそれを覗き見ていた土方も…

「酷ぇ…」

思わず呟いていた。
が、そんな土方が次の瞬間、奇妙な悲鳴を上げた。

「うひゃいあああっっ!!!」

突然尻に冷たい物が触れた感触がして、土方は背後を振り返った。
すると彼の尻に頬をすり寄せる大鳥がそこにいたのである。




「………な、何してやがるんだ、てめぇ…」

「美しいお尻だね〜土方君〜」

すりすりと土方の尻に頬をすりすりする大鳥。
そこで土方は気付いた。

「も、もしかして…っっ!!!」

その不吉な想像を肯定するかのように、大鳥が笑った。

「可愛いお尻が丸見えだよ、土方部長」

「どあ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っっっ!!!!」

その瞬間、土方は大鳥を殴り飛ばすと、慌ててその場から逃げ始めた。

「ああ、お尻が逃げていくっっ」

大鳥の叫びに土方は咄嗟に両手で尻を覆った。
確かに生尻の感触がある。
土方は顏を真っ赤に染めて走った。

「い、いかん、このままじゃ…襲われる〜〜〜〜〜〜〜〜〜っっっ!!!!」

そんな土方の耳に再び届く放送。

『土方部長が生尻を出しながら、屋上に向かって逃走中で〜〜〜〜っす!!!』

「黙れリオ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っっっ!!!!」

土方は必死に走りながら叫び…勢い余って窓から外に飛びだしていた。
ガッシャーン…と思いっきり窓ガラスを突き破った土方は、咄嗟に窓にしがみつく。

「や、やべ…」

はっと正気を取り戻し、下を見た土方の顔が青ざめる。
なんと地上では、女子社員達がネットを用意して
土方が落下してくるのを待ち構えていたのだ。

「カモーン土方部長」

フフフフフと桃が笑う。

「お尻の火傷、治してあげますよ〜」

ニヤニヤと姶良が笑う。

「落ちてきたら、美味しく頂いてあげますよ」

不敵に林原が笑う。
その他の部下達もニマニマと土方が落ちてくるのを手ぐすね引いて待っている。
土方は気付いた。
彼女達が構えているネットは…さっきの爆弾に入っていた粘着性のネットだ!!
つまり…

「落ちたら捕まってしまうっ!!!!」

恐ろしい想像が土方の胸を鷲掴みにした、その時。

「助けてあげようか、土方君」

この世で一番聞きたくない声が、土方に降り注いだ。




そっと上を見上げると、そこには伊東が不気味に微笑んでいる。
下を見下ろせば、恐ろしい女性達が。
土方は悩んだ。
尻を丸出しにした状態で彼女達に捕まったら…
まだ、伊東の一人ならあしらいようがあるかもしれない…と。

「……助けろ」

ボソリと、土方は伊東に言った。

「了解した」

ニマ〜と笑った伊東に、土方は吐き気を覚えたが、ここはそんな贅沢も言ってられない。
藁にもすがる思いで伊東を見上げた土方は、そこで恐ろしい物を目撃してしまった。

「なっ何をするつもりだ!!!?」

驚愕する土方が見たもの。
それは…

「伊東部長の愛を受け取って下さいませ」

ニョキッと伊東の左からぶー子が顏を出す。

「企画部新開発の製品ですのよ」

ニョキッと伊東の右からチアキが顔を出す。
そして伊東はというと…
口から焦げ茶色の物体を吐きだして、それを土方にぶつけようとしていた。

「な、な、何だそれは〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っっっ!!!!」

ひぃいい〜〜〜っっと叫ぶ土方に、ぶー子が説明する。

「企画部で開発しました!愛しいあの人を協力ゲットする、
チョコレイト味の強力粘着剤!!! これに捕まったら最後、人生の終りまでひっつきっぱなし!!」

「何でそれを伊東が垂らしてるんだっっ!!!!」

目の前にブラーンと迫るその物体に、土方が青ざめながら叫ぶ。
すると今度はチアキが説明した。

「これに掴まって脱出して下さい!!!」と。

「掴まったら離れられなくなるんだろうがっ!?」

「だから、伊東部長の愛です♪」とぶー子が。

「下に落ちるよりも、良いと思いますよ〜?」とチアキが。

「あの変な爆弾もてめぇらが作ったな!?」

「あれも新作です♪」

まったく悪びれない二人に、土方は本気で頭を抱えた。
そして土方は目の前に迫った奇妙な物体と、それを口から吐きだしている伊東の姿、
更に下でニヤニヤと土方を待ち構える女性陣に…本当に泣きたくなった。
一体どうして出社しただけで、こんな目に…と思うと、何だか腹が立ってきた。




「…ち、ちくしょ〜〜〜〜〜〜〜〜っっっっ!!!!」

土方は叫んだ。
叫んで叫んで叫んでから、彼は飛び降りた。
女性達の待つネットにむかってではなく、ネットの無い地上に向かって。
もうそれしか無事に脱出する方法が見つからなかったのである。
が、地上に落下したら、通常はただじゃすまないことを、土方はすっかり失念している。

「のぉおおおお〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っっっ!!!!!」

叫ぶ土方。

「きゃ〜〜〜〜っっ部長〜〜〜〜〜〜っっ!!!」

歓喜する女性陣。
が、伊東も負けなかった。
彼は口から吐きだしたその物体を、思いっきり振って土方を狙ったのである。

べチョ。

落下途中の土方の尻に、冷たい奇妙な感触が伝わってきた。
凄い嫌な予感が土方の心を包む。
何故なら、落下しているはずなのに、地上が一向に近づいてこないのである。
本当に嫌な予感を抱きながら、ゆっくりと背後を振り返った土方は見てしまった。

「……………な、何を…」

伊東の口から出た物体が、土方の尻にべったりとくっついているではないか。
土方の視線に、伊東の口がニマ〜と歪む。
伊東はぶー子とチアキに対して、パチンっと指を鳴らした。
すると、二人が何やらごそごそと動き…
土方は見てしまった。
伊東の頭上に巨大なアドバルーンが浮かんでいくのを。
そして、嫌な予感が現実になるのを知ってしまった。
伊東が、浮き上がったのである。




「ぶ、部長〜〜〜〜〜っっ!!!?」

地上から女性達の悲鳴が上がる。

「ふ、ふざけるな〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っっ!!!!」

叫ぶ土方の視線の先には、伊東がアドバルーンにぶら下がる姿が。
そしてその伊東の口と、奇妙な物体を通して繋がっている土方も
…大空に飛び立ち始めていた。

「馬鹿野郎、一体どこに行くつもりだ〜〜〜〜〜〜〜っっっ!!!!」

ぐんぐんと上空に上がっていく伊東と土方。
その二人を見送りながらぶー子とチアキが叫んだ。

「愛の逃避行、お気を付けて〜〜〜〜〜〜〜っっっ!!!!」

そう言って二人は、アドバルーンをつなぎ止めていた部品を外してしまった。

「う、うわっ馬鹿野郎!! どうやって戻る気だ〜〜〜〜〜〜〜〜っっっ!!!!」

「お元気で〜〜〜〜〜〜〜っっっ!!!!」

ぶー子とチアキがハンカチを振る。
そんな二人を含めて小さくなっていく部下や会社に、
土方が真剣に青ざめながら叫んだ。

「誰か助けてくれ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っっっっ!!!!!」と。






その日、「ニューセレクト愛の下着フェア」と書かれたアドバルーンに、
人間が二人ぶら下がっている様子を、日本中の人々が目撃したという。




その後の二人の行方を知るものは…いない。

空高く舞い上がる純情
来夢

> ニューセレクト人事部 D×I(♂・22…1/3誕生日でした)
バレンタイン土方部長争奪奮闘記

2月14日、ニューセレクトは異様な緊張感で満ちていた。
毎度エネルギッシュな先輩方だが、
今日はいつも以上に気合が入っている。
僕だって今日は特別な日だということは百も承知だ。
なんたってバレンタインだからね(゚―゚)気合入るよねっ!!

僕も土方部長にチョコレート渡したくって、
靴箱、ロッカー、デスクはもちろん
部長がいつも使用するトイレにも密かにチョコレートを忍ばせておいたよvvv
部長ったら照れちゃって直接(僕ごと)受け止めてくれなかったんだもん。
…え?男がチョコレートを渡すのは変だって?
そんなことないよ!
外国ではバレンタインには男性から女性に
花束なんかのプレゼントする習慣があるのだからv
…え?。。。何か間違ってる?

BACK